歯科治療の常識・非常識

1. 虫歯はできるだけ削らないほうがいいの?できるだけ早く削ったほうがいいの?

確かに、あわてて削ってしまわないほうが良い虫歯もあります。しかし、2~3年以上歯科医院で検診を受けていなかったり、患者さんが自覚症状を感じてから発見された虫歯の場合は、早めに削って治療したほうが良いことが多いようです。

 

「虫歯は削らなくても治る。」とか、「名医は、できるだけ歯を抜かない、削らない。」とか、「再石灰化で、虫歯は、削らなくても治る。」はたまた、「ダメな歯医者が歯を削って歯を悪くする。」などなど、歯医者嫌いの人にとって、とても魅力的な宣伝文句が、新聞、雑誌、あるいはテレビのコマーシャルなどに見受けられます。確かに一理ありますが、多くの場合は、これに当てはまらないのです。とても一般の人が勘違いしやすい言い方だと思います。これらが当てはまるのは、C1程度の、それもごく初期の段階の虫歯で、なおかつ、いつも歯科医院で定期健診をうけていることが条件になります。

 

また、学校の歯科検診などでは、歯が汚れていたり、検診設備が不十分でよく見えなかったりで、「虫歯がない」といわれても信用できません。また、歯科医院で見ても、レントゲンで見ないとわからなかったり、歯医者の目が悪くて見つからなかったりすることもあるのです。自分の都合の良い宣伝文句にはくれぐれもご注意を。

 

ページトップへ戻る

 

2. 院内感染症(あくまでも自分の私見として)

院内感染とその予防についてお話します。
院内感染とは、病院や診療所で、ほかの患者さん、病院のスタッフ、治療器具、などから病気がうつったり、病院の床や壁、イスなどの設備などに付着している病原菌が感染して病気になってしまうことを言います。すなわち、病気を直しに行ったはずの病院が媒体となって、新たな病気になってしまうことなのです。もちろん、私たち医療従事者も、常にその危険にさらされています。特に、最近ではHIV、SARS、C型肝炎など、新しい感染症が次々と現れ、治療法が確立していないものも少なくありません。
また、感染者本人が感染に気付かずに、病原体を撒き散らしていることもあります。私たちにとっても、通院してくる患者さんにとっても非常に重要な問題なのです。しかし、私たちのような個人開業医の間では、まだまだ十分な対策が取られていないのが現実です。
特に歯科医院では、治療に出血を伴うことが多いため、HIVや、肝炎ウィルスの感染媒体になる可能性が高いにもかかわらず、その対策は???????????のです。
院内感染の予防には何をしたら良いのでしょう。究極の方法は、1人患者さんを治療するたびにその病院を使い捨てすることです。しかしそんなことは非現実的です。できる事をできるだけやるしかないのです。どこまでやるかは、そこの医院長の良心しだい、と言えます。
私ですか?私の診療室では、患者さんごとに、その口の中に入るもの(治療器具はもちろん、ドリルの刃先、ドリル本体(ハンドピースは最低40本くらい必要)にいたるまで)は、すべて消毒済みのものと交換します。(当たり前のことのようですが、これを完全なものにするのに結構な年月がかかりました。)でも、1人の患者さんごとに治療椅子を使い捨てにはできません、簡単に消毒するのが精一杯です。人が何人かいるだけで感染の恐れはあるのです。日々の努力と改良が求められていることだけは確かです。しかし、明確な決まりはなく、それぞれの医師の裁量に任されている(最も肝心な所があやふやで丸投げされている)のが現実です、そして、そのための評価(具体的に言うとかかった費用や労力に対する報酬)はほとんどありません。

 

滅菌済切削ハンドピース

滅菌済切削ハンドピース

滅菌済切削バーセット

 

ページトップへ戻る

 

3. 歯の治療の真実

よく患者さんからの質問で、「この歯は、治療するとどのくらい持ちますか?」とか、「お金をかけて治療すれば長持ちしますか?」とか、聞かれます。また、「虫歯を治す」とか、「悪い歯が治った」とか、「あそこの歯医者は上手だとか下手だ」などと良く耳にします。
本当のところは、どうなんでしょう。
一概に、無責任なことは言えませんが、次に挙げる事柄は、かなり真実に近いと思いますので、これを参考にしながら、歯医者さんから話を聞くとよいでしょう。

  1. 健全歯(一度も悪くなっていない、何の手も加えられていない歯)に勝るものは無い。
  2. 虫歯になって治療した歯や、冠をかぶせたり差し歯にした歯は、悪いところが治っている訳ではない。
    ただ、ツギ当てをして、被害が拡大しないように取り繕っているだけ。
  3. 歯科の治療の中には、健康保険の適応外の方法が数多くあるため(治療による医師と患者の利害が必ずしも一致せず)、話がややこしくなっている。
  4. 健康保険の適応する方法か否かは、全国的に決まっていることで、歯科医師個々の考えや、好みの問題ではない。(歯科医師は、保険医の登録をしている以上、患者さんから保険診療の希望があった場合、保険診療を拒否することはできない。ましてや、保険適応の治療を手を抜いたから保険、一生懸命キチッとしたから自費、ということもありません。)
  5. 往々にして、病状の軽い歯は、治療の方法を問わず長持ちするし、病状が進行した歯は長持ちしません。
    そして、持つか持たないかは、あくまで比較の問題で、絶対的な基準はありません。
    また、何か人工的につけたり、はめたものは、いずれ、取れたり、壊れたりするのは、ある意味当然の事と言えます。
    一生物なんてことはあり得ません。
  6. そして、これが一番強調したいことですが、歯も体も、健康なことが一番美しいということをわかってほしい。
    最高の美は、心身共に健康であること。一見、遠目に綺麗だったり、格好がよくても、歯肉から膿が出ていたり、体や心が病気だったとしたら、…………

 

さあ、今からでも遅くありません。食生活に気をつけ、十分な睡眠をとって、自分の健康維持に努めましょう。それから、お口の中を清潔にするのは、自分以外の人に対するエチケットです。忘れずに。

 

ページトップへ戻る

 

4. 噛むこと、笑うことの話

食べ物を良く噛み、笑顔で食事すると、良いことがいっぱいあります。

  • 歯がいつもきれいでいる
  • ストレス発散になる
  • 歯肉が健康でいられる
  • 呆けない
  • 息が臭くならない
  • 成人病になり難くなる
  • 太らない
  • 風邪などの病気に感染し難くなる

 

以上のような結果、健康な人はますます健康に、自分に自信が持てる人はますます自信に満ちてくるのです。あなたは、人の目の前で、歯を見せて笑えますか?笑うことは健康維持に大切なこと。「歯を見せるな」なんて日本の社会ではよく言われましたが、そんなのはナンセンスです。いつも笑顔でいるために、良く噛んで楽しく食事しましょう。

 

良く噛むことは、唾液の分泌を促し、ドライマウスの予防にもつながり、多くの感染症から身を守ってくれるのです。(唾液中には、多くの免疫物質や抗菌物質が含まれています)また、咬合による刺激が、脳の発達に影響することは昔から言われており、運動生理学の研究でも、ガムを噛みながら運動することによって、集中力や反射スピード、さらに瞬発力までが、増すことが証明されています。さらに、成人病の予防や治療法として、食べ物を良く噛むこと(1口50回といわれています)が有効であることは、ヒポクラテスの昔から知られている事なのです。また最近では、アルツハイマー病の予防にもつながるという研究結果も出ています。

 

しかし、良く噛むと言う事には誤解も多く、「良く噛んで食べましょう」というと、硬いものをたくさん食べたり、むやみに歯を食いしばったりする人がいますが、良く噛むと言うことは、食べ物を十分に咀嚼して飲み込むということで、強く噛むという事ではないのです。また、日本人は、歯を食いしばってがんばることを美徳としているようですが、歯を食いしばるのは、単なる歯軋りで、百害あって一利なしです。近年、歯ぎしり、くりしばりが、歯周病や虫歯の大きな要因の1つと考えられるようになりました。やはり「過ぎたるは及ばざるがごとし」です。一流のスポーツ選手は、ここぞという時、口や顎はリラックスしているようです。

 

ページトップへ戻る

 

5. 歯科医院の看板表示について

最近、街中の歯科医院の看板を見てみると、いろいろなことが書いてあって、一体どう言う事なのか良くわからない人も多いのではないでしょうか。実際、良く「先生のところは、口腔外科はやっているんですか?」とか、「審美歯科はやってもらえるんでしょうか?」などと聞かれます。歯科医院の看板に書いてあることの本当の意味をできる範囲で解説しましょう。町の歯科医院の看板にはどんなことが書かれているでしょう。よく見かけるものを羅列してみます。

  1. 診療科目(歯科 小児歯科 矯正歯科 口腔外科)
  2. 駐車場有 診療時間 休診日 診療所の場所、電話番号など 診療所の名前、ロゴ
    急患随時各種健康保険取り扱いなど
  3. 審美歯科 インプラント レーザー治療 予防歯科
  4. 院長の学歴 診療方針やポリシー

 

ざっとこんな所でしょうか。しかし、病院や診療所が、看板や広告に書いてもよいと法律的に認められているのは1.と2.だけです。特に、歯科医院が表示できる診療科目は、1.の4つのみです。しかし、「歯科」としか表示が無くても、子供の治療もするでしょうし、歯も抜くでしょう、中には、多少矯正治療をする先生もいます。「歯科」以外の表示がある場合は、大学病院などで、それを専門に研修をし、その専門的知識と技術があると自負している場合が多いのではないでしょうか。3.4.に関しては、現在のところ外看板や、広告に表示することは、違法とされています。しかし、ホームページでの記載は、情報提供という扱いで、院内表示と同様規制はありません。審美歯科や、予防歯科というのは名前ばかりが1人歩きしてしまっているようです。審美性や、予防のことを考えない歯科医院はありえません。ただし、健康保険の範囲のみで治療を行おうとすると、どうしても審美性の面で限界があることは事実です。ですから「審美歯科」という票章は、「制約のある保険治療は、やりたくない」という意思表示だと思います。また、予防歯科というのは、すべて保険の取り扱いにでき、歯科医院としては当たり前のことで、予防歯科ができない歯医者などはこの世に存在しません。 このあたりから本当の意味を読み取ってください。

 

ページトップへ戻る

 

6. 歯医者の言う「良い」は、何が良い?

インフォームドコンセントということが言われ始めてもうだいぶ時間もたち、かなりその考え方も普及してきたようです。しかし、患者さんに十分な説明をして、納得してもらった上で治療をするのは当然のことなのですが、むしろ、この考え方がここ10年ほど前から新聞やマスコミなどに取り上げられ、さも最新の考え方のように取り扱われていることの方にとても違和感を覚えます。(中には、「当院では、インフォームドコンセントを行っています」なんてうたい文句にしているふとどき者も見受けられます。)それに、本当に患者さんにすべてを話し、納得させる事が出来ているのでしょうか?私自身も、治療の説明をしていて本当にわかってもらえているのだろうか?と力不足を感じることも間々あります。そこで今回は、医師が治療の説明をする時によく言う「こうしたほうが良いですよ。」の良いはどんな良いなのか?誰にとって良いのか?良いだけで悪いところはないのか?言っている医師によっても、言われている患者さんによっても、かなり温度差があると思うので、その辺について考えてみました。
一言で「良い」と言っても、どんな「良い」があるのでしょう。

  1. その歯の健康のために良い。
  2. 性能が良い。(より良く咬める。使用感が良い。)
  3. 見た目に良い。
  4. 患者さんの精神的満足度が良い、ステータスとしてよい。
  5. 後々、面倒が少なくてよい。
  6. 治療が簡単(早い、痛くない、怖くない、面倒でないなど)でよい。
  7. 金額が安くてよい。
  8. 医院や病院のお金が儲かって良い。
  9. より高度な、最新、最先端の治療をしたという、医師の自己満足度が良い。
  10. 今、流行だから良い。

 

ざっと考えただけでこんなにあるのです。そして、これらすべてを同時に達成することは、ほとんど不可能といえるでしょう。中には、必要のない治療を勧められたり、薬をだされたりしていることも多くみられます。また、その患者さんの年齢、職業、経済状態、口の中の健康状態、歯や歯肉の状態に対しての意識の違いなどによってもその優先順位は変わってきます。何らかの治療行為をすることは、必ず良い面と悪い面があるのです。そして、お金がかかる治療ほど良い結果が得られるとは限りません。むしろ悪い結果を招くことも結構あるのです。 又、何もしないことが一番良い結果を得られることすらあります。
私たち医師は、これらの条件をすべて患者さんに理解してもらい、治療法を選択してもらえるよう努力すべきではないでしょうか。これが出来て初めてインフォームドコンセントではないでしょうか。
また、患者さんの立場で言うと、まず、お金さえ払えば、楽をして良い結果が得られると思わないこと。高額な治療をすればするほど、そのメインテナンスにも努力と手間がかかるのです。そして、刹那的な見てくれに惑わされないこと。本当の「美」とは、自然のままの健康美であることが基本であると心得てください。そのためには、あまり余計なことはしないこと、する羽目にならない様にする事が大切です。医師の話を聞いて、何が良いのかわからなくなったら、こう聞いてみると良いでしょう。「あなた自身だったら、あなたの奥さんだったら、あるいは、あなたのお子さんだったらどの方法を選択しますか?」そして、その方法にはどんな悪い点があるのか、聞いてください。必ず何かしらのマイナス面があるはず、そこが肝心な点なのです。

 

ページトップへ戻る